私の恋人と執事はいつもいがみ合っている
「あーくん」

「河冨。
お前は、星那お嬢様の“執事”だろ?
俺の“婚約者”に気安く触らないでくれ。
━━━━━星那、行こ?
部屋でゆっくりしよ?」

「申し訳…ありませんでした……」
ゆっくり手を離し、頭を下げる河冨。

蒼志に引っ張られる星那は、振り向き「また、雑炊作ってるから食べてね!」と言い、蒼志に連れていかれたのだった。

ドアが閉まり、河冨はサイドテーブルを見る。

雑炊と飲み物、あとメモが置いてあった。

【河冨へ。
起きたら、食べてね!
お昼よりは上手くできたんだよ?
早く、河冨の風邪が治りますように!
星那☆】

メモを掴み、文字をなぞる。


━━━━━お前は、星那お嬢様の“執事”だろ?
俺の“婚約者”に気安く触らないでくれ━━━━━━


蒼志の言葉が、突き刺さる。
胸がまた、凄まじく痛みだす。

苦しい━━━━━
お嬢様が、好きすぎて苦しい。



……………あぁ…いつから、こんな狂おしい想いを抱き始めたのだろう。


河冨家は、代々久瀬川一族に仕える執事一家。

星那が生まれた時……いや、母親の腹の中にいる時から蒼志は、久瀬川邸に仕えていた河冨。
星那が生まれた当時はまだ、小学四年生だった。

その時は、星那を妹のように可愛がっていた。

可愛くて無邪気な星那に、河冨の心は既に奪われていた。

歳を重ねる毎に、星那は美しくなっていく。

それと同時に河冨の淡い恋心は、狂おしい愛情に変わっていく。

星那に自分の存在を心の奥底に刻み込むように毎日必死に星那の世話をし、尽くす日々。

なのに、蒼志があっという間に星那の心を奪っていったのだ。


「どう…して……
どうして俺は、こんなにお嬢様が好きなんだ………!」


星那が花嫁修行を始めた頃。

“これで、この狂おしい想いから抜け出せる”と思っていた。

星那がこの屋敷からいなくなれば……星那に会わなくなれば、吹っ切ることができるだろうと━━━━━━

しかし河冨の想いを知らない星那は、河冨を頼り更に河冨の心を奪っていく。

次第に、離れることさえもできなくなったのだ。

“星那が大学に行く”それだけでも、胸に凄まじい痛みを与え、苦しくなる。


星那を手に入れたい━━━━━━

いや……一生手に入らなくても、傍にいたい。


そう思うようになったのだ。
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