不器用なあの子は、今日も一宮くんに溺愛されている。




耳を疑った。


「バ、バスケ部の……エース!?」




ウチの学校のバスケ部は、県のローカルニュースだけに留まらず、全国区のニュース番組で特集を組まれる程の実力を持っているらしいし、いろんなスポーツ雑誌にも掲載されていると聞いたことがある。



だから校舎を歩いていると、カメラを持った取材陣の人達に遭遇することもよくあることだ。





先月の学年通信のプリントに載っていたバスケ部の特集を読んだけれど、今年特にすごいのが、1年生にしてこの名門バスケ部のエースに抜擢され、8月に行われたインターハイで優勝へ導いたとされる、確か名前を――……そうだ、一宮 律くん。




そんな人が、今、目の前にいるなんて。





「じゃあね、またね」


「あ、えっと……」



身長の高さもそうだけれど、誰もが持ち合わせているものじゃない迫力やオーラが尋常じゃない。


一宮くんは手に持っていた一万円札をそっと私のポケットに入れて、手を振りながら去って行った。





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