不器用なあの子は、今日も一宮くんに溺愛されている。
「……あ、伊都ちゃん!」
「!」
「おい律いきなり振り返るなよ……って、南野さん!」
「あの子、いつぞやの諭吉ちゃんじゃね?」
「おおー!試合中のコートん中を見事なスライディングで横断した子じゃん!」
「え、マジ!?俺それ知らねぇ!でも募金箱の中に万札入れたってことは知ってるぞ!」
「伊都ちゃん、お疲れ様。今月も点検の人になっちゃったんだね」
「……っ」
大量のティッシュで鼻を押えて、周りのみんなにせっせと横にならされながらも、私においでと手招きする律くんに――……思わず背を向けて逃げた。
これ以上、律くんに私の不幸を伝染させるわけにはいかない。
走って体育館を抜け出すと、一気に外の冷たい空気が私の周りを纏う。
もうずいぶんと風は冷たくなってきているというのに、私の火照った顔はいつまでも熱いまま。