不器用なあの子は、今日も一宮くんに溺愛されている。







それから私は、とにかく律くんを避け続けた。


不自然じゃないように、それとなく、そっと。



もうあと1ヶ月ほどでウィンターカップが始まってしまう。


律くんはきっと追い込み時期に入っているだろうから余計に、会う回数は意識していなくても少なくなっていた。






あれ以来、もう怪我はしていないかな。


風邪が流行っているから元気だといいけれど。



いつものように第1食堂で真実ちゃんと一緒にお弁当を広げながら、律くんのことを思った。その矢先。









「――伊都ちゃん、発見」


「え?」


「お友達ちゃんごめんね。ちょっとだけ伊都ちゃん借りてもいい?」


「い、一宮くん!うんいいよ!どーぞどーぞ!」




うしろから突然、グッと肩を抱きかかえながら私の耳元でそう言ったのはもう、顔を見たくなって分かる……律くんだった。


上手に手を取って「おいで」という彼の、その顔を見ることができない。

せめて大事な試合が終わるまでは、近寄れない。





< 103 / 259 >

この作品をシェア

pagetop