不器用なあの子は、今日も一宮くんに溺愛されている。
「か、借りられませんよ!」
「どうして?」
「り、律くんがまた私のせいで怪我しちゃうからです!」
「怪我?」
「さ、さようなら!」
大きな声でめいっぱいの牽制をして、そして猛ダッシュでその場を立ち去る以外の方法が分からなかった。
単なる私の勘違いであるならそれに越したことはない。
どんな形であれ、律くんの邪魔だけにはなりたくないから。
「……しょうがない。こうなったらもう俺本気出すからね」
「!?」
「本気で掴まえに行くから、俺に掴まるのが嫌なら全力で逃げなね」
「え、えー!?」
屈伸をしながらそう言った彼は、クルッと一回手首を回して、それから――……本気の速度で走って追いかけてきた。
私はもう後ろを振り返っている余裕すらなくなって、ただひたすら隠れる場所を探しながら全速力で校内を駆ける。
ハァッと吐きだす息が、白くなっていた。
私は最近、よく走る。