不器用なあの子は、今日も一宮くんに溺愛されている。
律くんはいつだってこうやって、私に幸せを授けてくれる。
足を滑らせたり転んだり、階段から落ちそうになった時だっていつも腕を引いて助けてくれたのは、律くんが私の近くにいてくれたから。
一緒にいると不幸が移ってしまう、だなんて悪い妄想ばかりが先走る「タラレバ」があるとするならば、一緒にいてもいいという「タラレバ」があってもいいのかもしれない。
掴んでいた私の腕をそっと離した律くんは「そろそろ帰らなきゃ、お友達ちゃんが待ってるね」と言って、今度はそれをゆっくりと差し伸べた。
まっすぐ目の前にやってきた律くんの右手に、私はそっと、自分の左手を重ねる。
熱く茹で上がったこの手は、律くんのひんやりと冷たい体温が心地よかった。