不器用なあの子は、今日も一宮くんに溺愛されている。
* * * *
「あ、伊都ちゃん!遅かったね、もうあたし殆ど食べたちゃったよ」
「壮絶な出会いをしてきました……」
「え?」
一宮くんのおかげで無事に体操服を買い終えて、真実ちゃんが待ってくれている第1食堂へ小走りに向った。
息を整えるように向かい合って席に着きながら、私は先ほど起こった珍妙な事件を終始話した。
この季節はまだまだしぶとく暑い。
「伊都ちゃんって背も高いし大人しいし、いつも手作りのお弁当持ってきてるし、しっかりしててお母さんみたいだなって思うけど、本当ドジだよね」
「お、お母さん……」
小さい頃から働き詰めのお母さんに代わって、家事全般を熟していたからその貫禄だろうか、それともこう、16歳にして母のような雰囲気を醸し出しているのだろうか。
昨日の晩ごはんの残り物のヒジキをパクパクと口へ運びながら考えた。