不器用なあの子は、今日も一宮くんに溺愛されている。
気にしないで、と言われて勢いよく頷いたはいいけれど、実際に気にしないでいられる自信は毛頭ない。
部活のことだけではなく、その他諸々いろんなことも然り。
あれから律くんは、マネージャーの夕夏さんが怒ってミーティングに連れ戻しにやって来るまでの間中ずっと、体育館の床をモップで磨く私の横に着いて回った。
「おい、南野。もう掃除は終わりだ。いつまでモップを持っているつもりだ?」
「え、あ、瀬戸会長!すみません!すぐに片付けてきます!」
「ボケッとしているが風邪か?」
「あ、いえ!元気です!」
「ならいい。早く片付けて教室へ戻れ」
「は、はい!」
だけど1つ気になったのは、夕夏さんが律くんの腕を掴んで連れ戻そうとしたほんの一瞬、私と視線が合さった瞬間にとても……睨まれていたということ。
何か気に障ることをしてしまったかな。
それともただの勘違い……だと嬉しいのだけれど。
どちらにしてもこれ以上考えても正しい答えは浮んでこないから、思いきり頭を横に振って、モップを元の位置に戻して教室へ急いだ。
体育館から外に出ると、冷たい空気は容赦なく肌に触れる。
空は一面灰色の雲で覆われていて、急かすように雪の到来までのカウントダウンを始めているようだった。