不器用なあの子は、今日も一宮くんに溺愛されている。
「――ごめんね」
ダメだ、これ以上……聞いていたくない。
私は走って、校舎をぐるりと大回りして別の道からもう一度昇降口を目指した。
「ここまで素直な気持ちをぶつけてくれたから、俺もキミに正直に話すね」
だから私は、律くんの想いを知ることはない。
「俺、実はね。小さい頃からずっと―――」
耳を塞いで走ると、自分の心臓の音がやけに際立ってしまう。
だからついでに、「あの子と付き合うのかな」という私の邪な考えも一緒に……かき消してくれたらいいのに、だなんて、そんなことを思いながら再び走った。