不器用なあの子は、今日も一宮くんに溺愛されている。
「――律くん、お待たせしましたっ!」
「伊都ちゃん顔真っ赤だけど大丈夫?そんなに急がなくていいって言ったのに。転んだりしてない?」
「はいっ、大丈夫です。でもちょっと……っ、その、大回りを、してしまって」
「ほら、落ち着いて呼吸しよ。あ、でもちょっとこっち来て?」
冷たい空気をいっぱい浴びながら猛ダッシュしたせいで、きっと1つに結ってある髪の毛はボサボサになっているだろうし、顏は赤くなっているに違いないし、前髪だってクシャクシャかもしれない。
だから程よく距離を保って荒れる呼吸と暴れる心臓をどうにか落ち着かせようとしていたとき、律くんはそんな私の小さな羞恥心を何食わぬ顔で打ち砕きながら、近くに歩み寄ってうしろからマフラーを巻き直してくれ始めたものだから、私は再びフリーズモードに切り替わる。
「今日も相当冷えるみたいだから、しっかり温かくしてなね?」
「!」
「ハイ、いい感じに巻けましたー。どう?伊都ちゃんちょっとは落ち着いた?」
「も、もう大丈夫です。ありがとうございます!」
「ハハッ、どういたしまして。じゃあ行こうか」