不器用なあの子は、今日も一宮くんに溺愛されている。
そう言って勢いよく本屋を飛び出したあと、律くんは私の腕を引いて電車で2駅乗り継いだ先にあるスポーツショップへ慣れた手つきで入って行った。
こじんまりとした店内には、ギッシリとたくさんのスポーツ用品が所せましと並べられていた。テニス、バドミントン、サッカーに野球、そしてバスケにサポート用品まで。
少し埃っぽいここは、なんだかとても懐かしく思えた。
「ここね、俺のお気に入りの店」
「こんなところにスポーツショップがあったなんて知りませんでした!」
「でしょ。ここの店長さん、本当にいいモノを知ってるからいつもお世話になってるんだよ」
「律くんは、今日は何を買う予定ですか?」
「うーんと、ね」
顎に手を乗せてうーん、と悩んだ律くんは、そのまま「ちょっとおいで」と言って手招きしたあと、手に取って私に重ね合わせたのは笛だった。
きみどり色の笛と、ピンク色の笛を順番に。
そのあとも次々とハンドタオルやリストバンド、スポーツ専用のジャージまで手に取っては私をモデルに頭を悩ませていくものだから、思わず待ったの手を差し出した。