不器用なあの子は、今日も一宮くんに溺愛されている。



* * * *



キュッキュッ、とシューズと床が擦れ合う音と一緒に、熱のこもった声援を飛ばす生徒達を横目に、今までの成績をメモしていく。






今日は球技大会当日。


体育委員の私は、1年生のバスケ部門の結果を本部まで届けるという仕事に追われている真っ最中。





「第2体育館、1年A組対1年B組……っと」



ここ、第2体育館といえば、普段はバスケ部専用だった気がする。

球技大会やレクリエーションのときのみ一般開放される仕組みになっているらしい。




「(と、いうことはここがバスケ部の更衣室だ)」


戦績を書き終えて、チラリと見えた半開きになっている更衣室。


少しだけ顔を覗かせると、《国体まであと──》と日付けが書かれた張り紙があったり、誰かの練習着が所狭しと吊るされていたり、古びたスポーツ雑誌に録画を再生する用のテレビまで置かれている。



強豪校の更衣室だなんて滅多に見られるものじゃないな、と得した気分で本部へ戻ろうとしたそのとき。






「……気になる?入ってみる?」


「わっ!!」


突然うしろから聞こえたその声に、私は思わず両肩を上げて驚いた。





「え?あ、き、昨日の……っ、エース様!」


「昨日ぶりだね、"諭吉ちゃん"?」


「(ゆ、諭吉……ちゃん)」


「おぉ、律が言ってた子ってこの子?」


「そう。この子めちゃくちゃ面白いよ!俺らの募金箱に万札入れてた」






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