不器用なあの子は、今日も一宮くんに溺愛されている。
一宮くんは友達が多いな。
彼の周りには男子も女子もいて、とにかく人気なんだってことがすぐに分かった。
実際に一宮くんが試合をしている姿は見たことがないけれど、きっと彼はチームの中でもあんなふうにムードメーカーなのだろうと思う。
あの笑顔、素敵だなぁ。
「……よし」
けれど、そううっとりと見惚れている暇もない。
全て書き終えた成績表を本部に届けるという大役が私にはまだ残っている。
盛り上がる体育館をそっと出ようと一歩を踏み出した途端。
───ズルッ、ズダダダダッ、ドテッという普段は滅多に聞くことがないであろうそんな音が、急に館内を駆けった。
そのせいで、少し前までの声援も、一宮くん達に向けられていた楽しそうなお喋りも、そして試合さえ中断させてしまったことを私は一番に後悔した。