不器用なあの子は、今日も一宮くんに溺愛されている。
「あ、危ない────!」
何が起こったのかは、とても簡単に説明できる。
まず最初に、私が体育館を出ようとした一歩を踏み出したとき、床に落ちていた誰かの汗拭きタオルを踏んでズルッと滑ってしまい、そしてその勢いのまま試合中のコートへズダダダダッとまるでスライディングのように乱入して、最後に控えのベンチへドテッと突っ込んでしまったのだ。
そして多分、これからこちらへ向かってきているバスケットボールの流れ玉に直撃する。
キュッと目をつむって、その衝撃に備えた。
「……っ!」
「………あれ?」
「あ、ぶなっ」
けれど、いつまで経ってもボールはこちらへ飛んでこない。
不思議に思いながらゆっくりと目を開くと、目の前には一宮くんがいた。
そしてこちらへ向かってきていたボールをキャッチして阻止してくれている。
「す、すみませんでした!た、大切な試合を中断させてしまって、その」
一気に静まり返ってしまったここ一帯に、事の重大さを理解していく。
体育委員が試合を中断させてしまうなんて、あってはならないことだ。
どうにかこの場を納めなくては、と焦りに焦って、「これはもう土下座だ、土下座案件だ!」と血迷って床に手を突こうとした私を止めたのは、これまた一宮くんだった。