不器用なあの子は、今日も一宮くんに溺愛されている。
03:一宮 律という人





* * * *




「じゃあHRは終わり。みんな気を付けて帰れよー」




今日は1日中災難だった、ような気がする。


家庭科の調理実習の時間に作ったハンバーグは、何故か私の分だけ生焼けで危うく死んでしまうところだった。


体育の授業でサッカーをしたときは、チームメイトから絶妙なポジションでシュートのチャンスをもらって、思いきり蹴ったはいいけれどシューズまで空高く舞い上がって未だにそれが見つからない。




そして極めつけがつい先ほど、終わりのHRをしていた最中に私のハンドタオルの中から卓球で使うピンポン玉サイズのカメムシが出てきたのだった。



カメムシと言えば小さい身体で猛烈に臭い、というイメージだったけれど、今回出てきたヤツは非常に大きくてそしてやっぱり猛烈に異臭を放っていた。


私が驚いて思わず席を立ってしまったばっかりに、静かに先生の話を聞いていたクラスメイト達がみんな大騒ぎになってしまったことは本当に申し訳なく思っている。








「伊都ちゃん、駅まで一緒に帰る?」


「……真実ちゃん。さっきは本当にごめんなさい。あの、カメムシの、件」


「え、ヤダ!伊都ちゃんそんなの気にしないでいーよ!ってか1番の被害者は伊都ちゃんだよ!」


「ありがとうございます、真実ちゃん。その言葉で救われました!あ、それから私今日は委員会の仕事があるので先に帰っていてください!」







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