不器用なあの子は、今日も一宮くんに溺愛されている。
真実ちゃんの他にも、仲良くしてくれているクラスの人達が「大丈夫?」と声をかけてくれたおかげで、今日1日の不幸が全て報われた気さえする。
ばいばーい、と手を振る真実ちゃんに同じように振り返して、私は体操服を持って小走りに更衣室へと向かった。
校内はだんだんと、吹奏楽部の人達がそれぞれの楽器を奏でる音で埋まっていく。
トランペット、ホルン、フルート、オーボエ、それから……微かなピアノの音。
放課後の、この静かで騒がしいひと時が好きだ。
みんなが一生懸命に活動しているこの時間は、見ていて元気を貰えるから。
「南野」
「あ、はい!委員長」
「お前またジャンケンで負けたのか。イジメられて押し付けられてるんじゃないの?」
「ち、違います本当に負けてしまってるんです……」
「悲しいな」
「えぇ、まぁ」
今日の委員会の仕事は、月に一度行われるの体育館の点検作業の日。
各学年の代表者1名が3つある体育館を手分けして点検していくのだけれど、1学年A組からE組まで5人の体育委員の中でジャンケンで決める代表者は、何故か毎回私になってしまう。
この高校へ入学してきて初めて委員会に入った4月から10月まで計6回行った点検作業は、今の今までずっと私がしてきていた。
いわゆるジャンケンに勝った試しがない。