不器用なあの子は、今日も一宮くんに溺愛されている。
律くんとお父さんの境遇が似ているからなのかもしれない。
お父さんも彼と同じように、日本の主力選手として活躍していた。
とにかくバスケが大好きなところも、いろんなメディアに引っ張りだこになっていたことも。
だからいやでも2人を重ねてしまう。
律くんも帰ってこないんじゃないかって、何か事故に巻き込まれたらどうしようって。
「どうしても……っ、律くんとお父さんを重ねてしまうんでです」
それから私は、自己防衛のためにお父さんとの一番の思い出を自ら消し去ったとあとに、涙も一緒に封印した。
理由は分からない。
だけどどんなに悲しくても苦しくても、涙が出なくなった。転んでも擦りむいても、打撲しようと鼻血が出ようと……一切泣けなくなった。
小学2年生の時に大切な人を奪われた悲しみは、今もまだ傷が癒えないくらいに私を抉り続ける。
「――行かないでっ、律くん」