不器用なあの子は、今日も一宮くんに溺愛されている。
キュッと目をつむって、絞り出したような声で言い放つ。
静かな教室に、私の声が響いた。
「伊都ちゃん」
「遠征になんて……っ、行かないで、くださいっ」
「……」
「律くんのことが……っ、大切なんですっ。絶対に失いたいくないくらい……大好きなんですっ!だから」
「おいで、伊都ちゃん」
律くんはそっと私の元へ寄り添って、そして抱きしめた。
抱きしめられて、私は自分が震えていたことに気付く。
キュッと力の入った腕に、いつものような驚きはない。
ただただ今は、彼の体温が心地よかった。
そしてまた思うんだ、このぬくもりを失いたくない……と。
「伊都ちゃん、俺ね?南野選手と約束したことが1つあるって、ちょっと前に言ったでしょ?」
「……はい」
「それってね?俺が小さいころ、まだあのクラブチームにいて南野選手にバスケを教えてもらっていた時に交わしたモノ、なんだけどね?」
「……」
「将来、南野選手よりも俺が強くなれたら……伊都ちゃんをお嫁さんにしてもいいっていう約束なんだよ」
「お、お嫁さん……?」
「そう、俺のお嫁さん」