不器用なあの子は、今日も一宮くんに溺愛されている。










「律くん…っ、あの!こんなこと卑怯だってことも、烏滸がましいってことも承知の上で言います」

「んー?なになに?」

「私――……」














――それから律くんは、1週間後ドイツへ出発した。


普通の平日だったから、見送りには行けなかった。


だけど、大丈夫。大丈夫、大丈夫だ――。









『私、ちょっと前に勢い任せに言ってしまったと思うのですが、律くんにするべきお返事は律くんが帰国したあとに言わせてほしいんです』


『だから律くんも、無事に帰ってきてから……その、私に先ほどの気持ちを聞かせてください』


『律くんが海外で頑張っている間に、私もきちんとけじめをつけてきます』


『とってもとっても大切な、けじめを――』



ちゃんと、そう約束したから。








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