不器用なあの子は、今日も一宮くんに溺愛されている。
「――伊都!大変!!」
「お母さん!?」
「早く降りてきて!」
数学のプリントも中盤戦、目を血走らせながら猛スピードで進めていたちょうどそのとき、玄関からお母さんが叫ぶ声に驚いて、椅子から転げ落ちながらも勢いよく階段を下りて駆けつける。
大変だなんて何事だろう、と不安になりながらお母さんの姿を見た。
そしてそのとなりに……律くんがいたから、私はそのまま茫然と立ち尽くす以外のことができなくなった。
「ただいま、伊都ちゃん」
「………え?」
「いやー、大きくなったねぇ律くん!それにすっごくイケメンさんになってるから、もうお母さん最初ビックリしたわよー!」
「………律、くん?」
「伊都ちゃん可愛いね。その前髪、チョンッてなってるの」
彼は自分の前髪を束ねて、私と同じように見せて指をさす。
律くんが帰ってきてくれた、律くんが私の家の玄関にいる、律くんがお母さんのとなりにいる。
もういろんなことが一気に押し寄せてきて、私の頭はすぐ混乱に陥る。
だけど、とりあえず、今は――。
「律くん……っ、無事ですか?」
「うん。無事だよ、伊都ちゃん」
「け、怪我は?」
「どこも怪我してない、ホラ」
「……っ」