不器用なあの子は、今日も一宮くんに溺愛されている。
「違うよタケちゃん、今のは俺にパスじゃなくて雄大に回してスリー狙うところだよ」
「す、すまん!とっさに律がいたから、つい!」
「んじゃ、もう1回同じフォーメーションで」
「おい律ー!お前今日何時から第2体育館行くんだ?」
「んーっとね。今日は瀬戸キャプテンが体育委員の仕事があるからって言ってたから、18時くらいに戻ってこいってさっきメッセージきてた」
今日はここに、律くんがいた。
いつも先輩や大学生の人達に混ざって練習をしているはずの彼が、何故か今日はここにいたから思わず凝視してしまった。
バスケ部の練習は、これまで体育館の点検をしていたときにチラリと見たことあるけれど、律くんが実際にボールを持って練習している姿は初めてだ。
本来なら2階の応援席は人で溢れているのだけれど、点検日である今日は応援禁止になっているためとても静かだ。
「落田監督、今日は点検の日なのでなるべく邪魔にならないように少しお邪魔させていただきますね」
「あぁ、南野さん。ハハッ、今月もキミになったんだね」
「今月も頑張らせていただきます」