不器用なあの子は、今日も一宮くんに溺愛されている。
「り、律くんそれ……!」
「ウィンターカップ優勝のトロフィーだよ。伊都ちゃんに持たせてあげるって約束、まだ叶えてないなって気づいて、ちょっとね」
「ちょっと?」
「瀬戸キャプテンに3on3を挑んでね、ストレート勝ちしたら持ち出しの許可をくださいって決死の勝負で勝ち取ってきた」
「ぎゃー!い、今すぐ袋の中にしまってください!」
「アッハハ!平気だってば伊都ちゃん、ホラ持ってみなよ」
不安だったこと、密かに思っていたこと、律くんが1つずつ解消してくれている。
ここにこうして彼はきちんと目の前にいるはずなのに、どこか現実離れしているような感覚のまま、実感がわかないまま待ちに待っていた時間が過ぎていく。
「ほ、本当の本当に私が持ってもいいんですか!?」
「いいよ!ホラホラ!」
「でも律くんもご存じのとおり私は不幸な体質なので、突然壊れたりどこか欠けてしまうかもしれませんよ!?」
「だーいじょうぶ、これから伊都ちゃんの不幸体質は全部俺の超最強の幸運で守ってあげるから」
ドキッと、心が鳴った。
律くんが紡ぐひと言は、本当に私を守ってくれているような安心感をくれる。
加えて紺色の大きめのパーカーに黒色のスキニーで合わせている私服姿の彼は、見慣れた制服姿やユニフォームじゃないから直視することができなくなった。