不器用なあの子は、今日も一宮くんに溺愛されている。
* * * *
それから私たちは、お母さんのお店でお母さんオススメのモノをどんどん勧められながらご飯を一緒にして、そしてお墓参りにも行った。
律くんは長い時間をかけてお父さんのお墓の前で手を合わせてくれていた。
長い長い、何かを伝えるように――。
そして律くんは、最後に行きたい場所があると言ってタクシーを呼んだ。
てっきり家に帰るものだと思っていた私は、行き先を知らされることのないまま30分以上車に乗って、律くんの「着いたよ」の合図でようやくここがどこなのか把握した。
「律くん……っ、ここ!」
「うん。俺と、伊都ちゃんが初めて出会った場所」
そこは、今ではもう使われている形跡がない……体育館。
わずかな記憶から蘇る――……バスケのクラブだった。
田舎町の、中でも特に田舎だったこの辺りは、とにかく草と虫が多かった。
今は古びた館内でも最低限の手入れはされているようで、体育館の外にあったお庭には家庭菜園まであるから驚いた。
おもむろに中を覗くと、標準サイズのモノよりも背の低いバスケットゴールが2つ、通常用のものが2つ、各々塗装が剥げていながらも確かに“あのときのモノ”のまま、それらはそこに存在していた。