不器用なあの子は、今日も一宮くんに溺愛されている。
点検項目を上から1つずつチェックして、窓のひび割れ、ネットの破損など隈なく見渡してレ点を入れていく。
普段の律くんも相当なオーラの持ち主だなと思うけれど、練習している今はその何倍もスゴイ人なんだなと改めて感じさせられる。
真実ちゃんが録画していた国体の決勝戦を一緒に観させてもらったときの、律くんの最後のインタビューが今も忘れられない。
《この悔しさと後悔は、絶対に来年まで忘れません》
《今後どの県でどのメンバーが揃おうと対応できるプレイヤーになります》
天才だ、逸材だ、高校バスケ史上最高のプレイヤーだなんて言われている彼の、あの言葉はグッとくるものがあった。
きっとあの場で戦った彼らにしか分からない感情だとしても、ほんの少し、ほんの少しだけ律くんが握っていた拳の理由くらいは分かった。
「最後は……部室の点検っと」
6畳ほどの部室にはロッカーがドドンッと置かれていて、床にはゴチャッと誰のモノやらの服やズボンが雑に投げ捨てられてある。
この体育館は主に1年生が使うところだからか、同じクラスの人の名前もチラホラと見かける。
律くんが少し前に呼んでいた「タケちゃん」こそ、私のクラスのムードメーカーだ。