不器用なあの子は、今日も一宮くんに溺愛されている。







「実は俺たちの監督の代でクラブは閉鎖しちゃったんだけど。俺の父さんが不動産業を経営していてね、ここだけはそのまま残してほしいってお願いして取っておいてもらってんの」


「す、すごいですね!大人の方たちがオッケーしてくださっているなら、ナイスアイデアだと思います!」




小さいころの、ちょうど記憶が薄れている部分の名残りが当時のまま残っているのはすごいことだと思う。



まだまだ完璧にはほど遠いけれど、それでもポツポツと確実にパズルのピースが揃いだしている感覚は分かる。





ミニサイズ用のゴールで律くんとシュート練習をしたこと。

ディフェンスの正しいやり方を何度も反復しながら身体で覚えていったこと。

唯一控え室にあったクーラーで暑さを凌いでいたこと。







「ここで伊都ちゃんに出会って、ここで伊都ちゃんのことを好きになって、ここでお別れしたんだよ」


「……お別れ?」


「そう、お別れ」







体育館の真ん中、律くんは人1人分の間を開けて私と向かい合った。


木々が揺れる音と、小鳥の鳴き声だけが空を駆けてこだましていた。





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