不器用なあの子は、今日も一宮くんに溺愛されている。
だけど、一般入試を合格して通常運行で入学した私には、その華やかしい垂れ幕にも、完璧な設備にも、まして『強豪』だなんてどんなにすごい呼び名も一切無関係だ。
家からバスで15分揺られていれば登下校が可能で、なおかつ県内ではそこそこの進学校であるから、中学生の頃の進路希望も友達より少しだけ先に決まっていたような気がする。
夏休みが終わっても、まだまだ暑い9月も終わりのこの時期。
私は今日も同じように、『1-A 南野』と書かれた靴箱をパカリと開けて上履きに履き替える。
そして、教室に入る前に『今日も1日無事に過ごせますように』と心の中でお願いをしながら扉を開けた。
有名なバスケ部の彼らが、毎日朝早くから夜遅くまで練習をして、1つの目標へ向かっているのと同じ、私は私のペースでただ平穏に、のんびりと過ごしていく───……はずだった。
今日は特にこれといった災難に見舞われることもなく、朝のニュース番組でやっている星座占いだって上位だったはず。
昨日返ってきたテストの結果もそこそこ良かった、体育のスポーツテストも平均を上回っていたから上々。
こんなに完璧が揃ったことはないと浮かれ気分でいた。
お昼休み前まで、は。