不器用なあの子は、今日も一宮くんに溺愛されている。






「伊都ちゃーん!お昼食べよ!」

「はい!あ、でもその前に私、冬の体操服を買ってきますね!あと、ついでにバスケ部さんの募金千円も投入してきます」

「伊都ちゃん千円も募金するの?」

「応援に行けないので、せめて頑張れの想いをこの野口英雄さんに託して」

「あっはは!伊都ちゃんらしいね!じゃああたしは食堂の場所取っておくから!」

「お願いします」








4限目の授業を終えてすぐに、真実(まみ)ちゃんにそうひと言添えて購買へと駆け足で向かう。



入学前に購入した冬の体操服は、家に届くと何故かLLサイズが入っていたから、今こうして右手に1万円札、左手に募金の千円を握って走っている。








だけどこんな些細な不運はきっと誰にでもあって、それは多かれ少なかれみんなが通っていく過ちなのだと思う。



だから私もあまり気に留めず、ズラッと並べられたバスケ部の募金箱の、1番端の箱に千円札をいれとうとした、そのとき。


バタバタと走り去っていった数人の女子生徒の中の1人と、思いきりぶつかった。





「急いで!今日は第2体育館でもう始まってるらしいよ!」

「今日は結奈が一宮くんに告白するって言ってたから!」

「うそ、マジで!?ズルい!」


彼女達はぶつかったことにすら気付いていない様子で、ひたすら「急いで!場所埋まるよ!」と声を掛け合いながら廊下を全速力で走り去った。




……が。



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