不器用なあの子は、今日も一宮くんに溺愛されている。






「や、やってしまった……」


彼女達の誰かにぶつかった拍子に、まるで吸い込まれるように募金箱の中に入っていったのは野口英雄さんではなく……。






「ゆ、諭吉さぁぁぁん!」


体操服を買うための1万円札が、スルリと逝ってしまった。




つい先程までの浮かれ気分はどこへやら、一瞬にして絶望の淵に立たされたような気分全開の私は、やっとお昼休みに入った他の生徒の迷惑にならない程度に叫んだ。主に心の中で。




ガッチリと鍵で閉められているこの募金箱は到底開けられないし、投入口は当然小指1本すら入らない。







「ど、どうしよう……」



せっかくお母さんから貰った1万円という大金を、「バスケ部に募金しちゃったからもう一度ちょうだい」なんて口が裂けても言えない。



いや、こうなったらもうLLサイズで乗り切るしかないか、それともバイトを……、いや、ウチの学校はバイト禁止だ。



「ダメだ!終わった!」

グワッと頭を抱えて、じわりと目尻りに浮かび上がる涙をこらえた。












「うわ、キミ今その募金箱に万札入れたでしょ?」



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