不器用なあの子は、今日も一宮くんに溺愛されている。
彼が、そこに颯爽と立っていた。
高い身長に柔らかそうなふわりとした黒髪。
きれいな瞳に私の姿を映した彼が、ニコニコと笑いながら同じ視線の位置まで腰を下ろして笑った。
「キミ熱心なの?それともウチの部員の誰かに弱味でも握られちゃってる感じ?」
「え、え!?あ、いやっ、そういうわけじゃ……なくて」
「アッハハ!あのさ、もしかしてそっちの手に持ってる千円と入れ間違えた?」
「ご名答です。募金箱の中に入っている諭吉さんは本来、私の体操服代でした」
「マジか!アッハハハ!嘘、そんなことってある!?」
ぶっ!と吹き出しながらゲラゲラと笑う名前も知らない彼を見て、余計に悲しくなった。
しかし本当に困った。
募金箱の前で叫びながらうろついて盗人だと思われることだけは避けたいし、だからといって私の諭吉さんを放っておくわけにもいかない。
取りあえず担任の先生に相談しようと立ち上がったその矢先、「ちょっと待って?」と言って私の手首を握った彼は、自分の財布の中からガサゴソと1万円を取り出して、なんと私に差し出した。