不器用なあの子は、今日も一宮くんに溺愛されている。
ダメだ、落ち着かなくちゃ。
律くんはこれからウィンターカップの予選に向けてきっともっともっと忙しくなるだろうし、練習漬けの日々が続くだろうから、きっとまだ先のことに決まってる。
ずっとまだまだ先の話だよコレは……!
鼻息が聞こえない程度に大きく息を吸って、スゥッと口から吐き出す。
すると「ははっ」と掠れた笑いとともに私の頭を2回、ポンポンと撫でた彼は、グッと距離を詰めて「これからもよろしくね。伊都ちゃん」と耳元でささやいた。
そして別れの挨拶に「お願いだから気を付けて帰ってね」と加えてこの場を去って行った。
「……!?」
素早い一連の行動に全くついて行けなかった私は、呆然とする他ない。
だけど律くんが体育館へ戻るために振り返ったその一瞬、確かに一瞬だけ見えた顔はすごく嬉しそうに笑っていたから、それだけで私も嬉しくなった。