不器用なあの子は、今日も一宮くんに溺愛されている。





そして文化祭当日。



私達のクラスのお店は焼きそば担当で、まだ開始から1時間ほどしか経っていないというのに大変な大盛り上がりを見せている。


主にクラスの野球部の「イルァッシャイマセェェエエ!」の声を先頭に、ジャンジャンと量産していく姿はとても勇ましい。




少し前まで真実ちゃんと一緒にしていた売り子を私は一旦抜けて、これから体育委員の見回りの仕事をしなければならない。


《安全第一》と目立つ黄色の文字で書かれた大きなアームバンドを取り付けて、いざ、指定された3階の通路を見回ろうと階段を登った。





と、その拍子に急ぎ足で降りてきた誰かに、思いきり肩と肩がぶつかる。


「チッ」と舌打ちした相手と、無言で落ちそうになる私。





これはどうにかしないと大変なことになる、と頭の中では分かっているのに、手摺りに捕まろうとしてももうそれは届かない場所にある。



段々と仰反る身体はもう、このまま反転しながら落ちるのを待つのみ。


落下まであと、3、2、1―――……。






「―――あっ、ぶなかったね伊都ちゃん。今のはちょっと俺笑えなかった」


「……っ!」




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