不器用なあの子は、今日も一宮くんに溺愛されている。
途端、ギュッと目を瞑って覚悟していた予想とは違って、私はうしろにいた誰かの腕の中にスッポリと収まっていた。
優しく包んでくれる、この匂いとこの体温―――……。
「り、律くん!?」
「人にぶつかったらまず、謝ってくださいよ瀬戸さん」
「……お前か、一宮 律」
咄嗟に助けてくれた律くんは、私を抱えたまま上にいる衝突相手の方に視線を上げて、いつもより一段低い声でそう言う。
同じように彼の視線を辿ると、そこにいたのがこの学校の生徒会長だったから、思わずハッと息を呑んで足を揃えた。
わ、私ってば生徒会長にぶつかってしまっただなんて……!
年に一度行われる生徒会選挙と生徒総会のとき以外、滅多に表に出ない学校の裏方代表のような生徒会執行部の方達。
その中でも生徒会長は、毎日忙しくいろんな役割を熟しているんだってことをどこかの噂で耳にしたことがある。