不器用なあの子は、今日も一宮くんに溺愛されている。
「……一宮、彼女の言うとおり、今この時間が無駄だ」
「一方的に伊都ちゃんにぶつかっておいて、どの口が言ってんだか」
「確かにぶつかったことはすまないと思っているし、彼女が怪我をしなくてよかった。ただこれ以上何もないなら、彼女にも委員会の仕事に戻らせるべきなのでは?」
「そうでした!私、体育委員の見回りの仕事があるんでした!」
「……アッハハ!上から一方的にぶつかられて階段から落ちそうになったのに、伊都ちゃんは文句1つ出ないんだね。……じゃあ俺も、生徒会長のこと許そうかな」
「え?」
「じゃあ伊都ちゃん、一緒に見周り行こうよ」
「え、そ、そんな!一緒にだなんて滅相もないですよ!」
律くんは私の右手を握って、生徒会長の横を素通りして階段を駆ける。
《1年C組!ぽってりポテポテ・ポテトフライ!!》と大きく目立つ文字でそう書かれている段ボールの看板を首に掛けていた彼は、きっとクラスの模擬店の宣伝中だったのだと思う。
そんな時にまた1つ、律くんに助けられてしまった。
律くんに再会してからというもの、こうして何かあるたびににずっと助けてもらっている気がする。
自分で起こした出来事に私自身が怪我をするのは構わない。
だけどもしも、他人を……律くんを巻き込んでしまったら、と考えただけで恐ろしい。