エリート御曹司は極秘出産した清純ママを一途な愛で逃がさない
「お母さんね、映美が結婚するときに着付けやメイクをやってあげるのが夢なのよ」

これは母の口癖で、幼い頃に父が病気で亡くなってから口にする頻度が増した。
女手ひとつで私を育ててくれた母には、心から感謝している。

「きっとお父さんも、映美の花嫁姿を見たかっただろうな……。ちゃんとそのときがきたら、お母さんが責任を持って送り出すからね」
「う、うん」

しんみりする母に、私はなんとか平静を装って微笑んだ。

実はこれから偽恋人のご両親に会いに行く、だなんて、口が裂けても言えない。
そんなことをしたら、娘の幸せな結婚という母の夢を壊しかねない気がした。

「はい、終わりよ。うん、上出来」

満面の笑みの母が、スタイリングが完成した私を見る。

「ありがとう、お母さん」

自分で言うのもなんだけど、プロの手にかかると見違えるようだった。

普段はただ一本にまとめている髪も、緩く巻いてアップにすると清楚に見えるし、アイシャドウと合わせたピンクベージュのリップで顔が明るくなった。

不安も大きいけれど、母のヘアメイクのおかげで、白鳥部長の婚約者としてご両親に会う自信がついたかもしれない。

準備ができた私は、濃紺の箱をバッグの中に忍ばせて電車に乗った。
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