エリート御曹司は極秘出産した清純ママを一途な愛で逃がさない
向かう場所はベイサイドにある高級ホテル。一階のラウンジで、ご両親との食事の前に白鳥部長と打ち合わせをする予定だ。

「映美、こっち」

ラウンジに入ってキョロキョロしていた私に向かい、奥の席で白鳥部長が挙手をした。

"映美"?

初めての呼び方に内心かなり戸惑いながら、私は会釈すると急いで白鳥部長のもとに駆け寄る。

「お待たせしてすみません」
「いや、俺が早く来ただけだよ。それより、いきなり呼び捨てで悪い。恋人なんだからこの方がいいかと思って」

白鳥部長は爽やかな笑顔で私を席に迎えた。

今日はグレーのスーツに、モノトーンのストライプ柄のシャツを合わせている。仕事ではなく両親との会食だから、カジュアルダウンしているようだ。
すごくセンスがよくて、控えめに言って雑誌で見るモデルさんと遜色ないほどカッコいい。
 
「そうですよね。たしかにその方が自然です」

私は平常心で言いながら、白鳥部長の向かいの席に腰を下ろす。

いよいよ本当に白鳥部長の恋人役を演じるんだと実感が湧いてきて、心臓が早鐘を打った。

「俺のことも名前で呼んでほしい。口調ももっとフランクで構わないから」
「はい、できる限り善処します」
「よろしくな」

言ったそばから敬語の私を清都さんは咎めもせず、穏やかに微笑んだ。

さすがにすぐに口調を崩すのは、これまで長年敬語でかかわってきた立場からしたら難しい。徐々に慣れていけるかな。

ホットコーヒーが運ばれてきて、香ばしい匂いに動悸が幾分穏やかになっていく。飲み込むと、気持ちが少し鎮まった。

「それから、」

カップをソーサーに置くと、私は言いかけた清都さんを見つめる。

「今日は上司としてではなく、俺をひとりの男として見てくれないか」

コーヒーで落ち着いた心臓が、再びドキドキとせわしなくなってきた。

「えっ」

ひとりの男として見る……?
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