エリート御曹司は極秘出産した清純ママを一途な愛で逃がさない

4 戸惑いの再会

桜の季節が終わり、清都さんとの別れを経て、季節は移り変わっていく。

夏の日差しに目陰をさす頃の七月末日、私はクリスタルビール株式会社を退職した。

引き継ぎがスムーズに行えるよう、清都さんの後任の事業部長には早めに伝え、プリズムの新しい店長は後輩スタッフの千花ちゃんに決まった。

退職後は求職活動もせず、毎日実家で家事をこなした。
美容院を経営している母に代わり掃除、洗濯、食事の準備をすべて担う。
学生の頃から忙しい母を手伝っていたので難はなく、献立を考えて手料理のレパートリーが広がるのは楽しかった。

例年通り猛暑の八月と、残暑が厳しい九月が過ぎ、枝葉が色づき始める乾燥した季節が訪れた。

体調に気をつけて安静に暮らしていた、十二月の寒い日。
私は産婦人科クリニックで第一子となる男児を出産した。

清都さんとの赤ちゃんだ。

とても小さくて、ふぎゃあと優しい声で泣く彼を、私は光太(こうた)と名付けた。

たとえ父親がいなくても、この子の未来が光り輝き、太陽のように明るく強く生きてほしいという願いを込めて。

妊娠がわかったのは、清都さんがアメリカに赴任した直後だった。
生理の遅れと妊娠の初期症状のような微熱があり、まさかと思って妊娠検査薬で確かめた。
結果は陽性で、視界がグラグラと揺れるほど手が震えたのを鮮明に覚えている。

それからは、不安と戸惑いで仕事に身が入らず、夜も眠れなかった。

どうしよう……。
出産も育児も未知すぎて、頭の中が真っ白な状態。

企業買収という大きなプロジェクトのためにアメリカに渡った清都さんには、とてもじゃないけど相談できない。
ましてや、別離直前にあった乃愛さんファンとのトラブルで気まずいままだ。

それに、清都さんはまだ亜紀さんに思いを寄せているかもしれない。

どう考えても困らせるのは明白だった。

ひとりで産めるのだろうか……。

悩んだ私はネットで調べまくり、『妊娠は奇跡だ』というある助産師さんの言葉が心に刺さった。

奇跡的にお腹に宿った命を失いたくない。
まだ実感は湧かないけれど、私の中にたしかに芽吹いた生命を大切に守りたい、と強く思った。


< 46 / 90 >

この作品をシェア

pagetop