エリート御曹司は極秘出産した清純ママを一途な愛で逃がさない
「爽やかなフルーツ果汁の美味しさ、新発売!」

テレビから聞こえた元気な女性の声に、私は反射的に顔を上げた。
そこには、ペットボトル入りのジュースを持って笑顔を輝かせる、支倉乃愛さんの姿があった。

相変わらずお人形のように整った顔立ち。上品な笑顔がとても眩しくかわいらしい。
二年前よりもさらにメディアで見る機会が増えた。

けれども私は、クリスタルビール株式会社のCMを見ると、心が焦げたような複雑な感覚に陥る。

「映美、ほらまた!」

テレビを見つめていた私は、母の呼びかけにハッとした。
光太は口もとに運んだお椀を傾けて、本来口に入るはずの味噌汁を滝のように床に流している。

「わあっ! 光太!」

今度こそアウト。結局着替えるハメになった。

ため息を吐き、汚れた衣類を洗面所で軽く洗い流す。
光太は最近自分でできることが増えた反面、まだ手もとは不確実で心もとなく、どこまで自分でさせていいのか判断に迷う。
手伝った方が汚れないし、早いと思ってしまうのだ。

「くっく上手に履けたね。さ、出発するよ」

玄関で母に手を振ると、光太を自転車のチャイルドシートに乗せベルトを締めた。
サドルに跨り、ゆっくりとバランスを取りながらペダルを漕ぐ。

光太は靴も自分で履こうとするけれど、上手くいかなくて時間がかかるし、匙を投げて泣き出すこともしばしば。なかなか難しい。

母は育児に対して口を出さず見守ってくれるけれど、こういうとき父親がそばいてくれたら。悩みを共有して解決できたらいいのに、と正直思う。

光太だって、いずれ自分には友だちと違い父親がいないと認識する。その頃にはきっと、いくら私や母が愛情をたっぷり注いで補ったって、恐らく寂しい思いをさせるだろう。

この道を選んだのは私なのだから、いちいち弱音を吐くなんてもってのほか。
私がもっと強くならなくちゃ……。
< 49 / 90 >

この作品をシェア

pagetop