エリート御曹司は極秘出産した清純ママを一途な愛で逃がさない
唇をキュッと噛みしめ、首を左右に振る。
歩行者信号が青になり、止めていた足を動かそうとしたときだった。

「ゴーゴー!」

笑顔の光太がかわいい声で言い、小さな拳を振り上げる。
その姿を見て、こわばっていた頬が弛緩した。

最近よく私の真似をするようになった。

かわいくて、際限なく愛おしい。
あどけない仕草や小さな成長を見るのは、日々幸せを感じて、何ものにも代えがたいなぁと思う。

それに、赤ちゃん時代から比べると顔つきがはっきりしてきて、この頃ますます清都さんに似てきた。
まだ薄いけれど凛々しい形の眉も、涼しげな二重瞼も、スッと高く伸びた鼻梁も。
髪質は黒くサラサラで、アーモンド型の瞳は美しい漆黒。

大人になってからはもちろん、清都さんの子ども時代を知っている人が光太を一目見れば、彼と血が繋がっている事実を言い逃れできないだろう。

そんな光太のかわいい笑顔には朝のバタバタとか、私の複雑で頼りない心情とか、すべてチャラになる威力がある。
ひとり親で思い悩まない日はないけれど、私を前向きにしてくれる一番の存在と言える。

光太を保育園に預け、出勤したのは徒歩三分と近いおにぎりと惣菜のお店、『きらきら亭』。
光太を生後半年で保育園に預け、私はここで惣菜作りと販売の仕事をしている。

社員の店長と、私の他に年配の女性パートさんが数名。パートだけれどフルタイムなので社会保険や福利厚生もしっかりしているし、余ったお惣菜をいただけるのですごく助かっている。

社長はきらきら亭を数店舗の他、子ども食堂も運営していて、自身もシングルであることからシングルマザーに理解が深い。真面目に働けば社員に登用されるパートさんもたくさんいる。

そうなれば仕事内容は店舗勤務のほか、宅配トラックの運転手や商品開発、本社の事務など多岐にわたるそうだ。
先輩スタッフたちのいきいきとした働きぶりを見ている私も、いつかそうなりたいと淡い期待を抱いていた。

光太の将来の学費のためにもがんばって働かなくちゃ。
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