エリート御曹司は極秘出産した清純ママを一途な愛で逃がさない
「名前は?」

もう隠し通すのは無理だろうと、私は観念して長い息を吐く。

「……光太です。光るに、太陽の太で」
「いい名前だな」

そう言って、清都さんは一向に進まないベビーカーに不満そうな顔をした光太の頭を優しくなでた。

誰だかよくわからない相手を見上げ、光太は眉間にシワを寄せる。光太はまだ人見知りが完全には終わらず、特に男性が苦手なようだった。

「映美、結婚しよう」

光太の反応ばかりに気を取られていた私は、信じられない台詞にピタリと静止した。

結婚、って……。
それって、プロポーズ?

「……え?」

戸惑いの声を発した矢先、光太が突然火がついたように泣き出した。
ギャー! っという力強く張り上げる大声は、周囲に遠慮なく響き渡る。

「あの、すみませんっ」

私はあたふたしながらベルトをはずし、目から大粒の涙を流す光太を抱き上げた。
落ち着かせるため体をぴったりとくっつけて抱きしめ、背中をポンポンとリズムよくなでる。

「明日の二時、あのときのホテルのロビーに来てくれないか」

抱っこで少し落ち着き始めたとき、清都さんが私たちのすぐそばまで来て耳打ちをした。

「きみが来るまで、ずっと待ってる」

吐息が絡んだ低い声に、背中がゾクッとする。

「えっ、ちょっと、待ってください……!」

一方的な誘いに焦る私の返事など聞かないまま、清都さんはその場から去って行った。



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