エリート御曹司は極秘出産した清純ママを一途な愛で逃がさない
次の日、私は仕事を午後休にした。
店を出て、電車で向かうのはベイサイドの高級ホテル。

清都さんに言われた通り会いに来たのは、また店に来てお客様に絡まれては困るから、という理由と。

『きみが来るまで、ずっと待ってる』

大企業の副社長を務める立場なら、ずっと待っている時間的余裕はないはずだ。
けれど、万が一私のせいで仕事に穴が開いたら、と思うと居ても立ってもいられなかった。

昨日は帰宅してからも頭が混乱して、ずっと動悸が収まらず、一晩中忙しない気持ちでいた。

清都さんに再会して、光太のことがバレるという一連の事態に、これからどうなるのだろうと不安が消えない。

眠っている光太を何度も抱きしめた。

『映美、結婚しよう』

清都さんはきっと責任感からそう言ったのだろう。
私を愛しているわけじゃないなら、たとえ結婚しても私は清都さんを信じられず、二年前と同じようになりかねない。

ベイサイドの高級ホテルに到着し、キョロキョロと周囲を確認するが清都さんの姿はなかった。私はロビーで待つことにした。

二年前、ここに清楚なワンピース姿で来て、ラウンジで清都さんと打ち合わせをしたんだ。
名前で呼ばれ、心の距離が縮まる会話を交わし、胸を高鳴らせたっけ……。

そしてご両親に会い、偽りの恋人とは思えないほどロマンチックな一夜を過ごした。
けれども清都さんの心はほかの人に向いていて、私は身代わりだったのだ。

暗い気持ちになり、行き交う人をぼんやりと見つめていると、背後から肩を叩かれた。

「来てくれないかと思った」

清都さんの息は弾んでいる。
忙しい合間を縫って、急いで来たのだろう。

それに、昨日までの強気な態度から一変して、あからさまに頬を柔和に弛緩させ、少しだけ眉を下げてホッとするなんて反則だ。
不覚にもギャップにきゅんとしてしまった。

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