エリート御曹司は極秘出産した清純ママを一途な愛で逃がさない
「部屋を取ってある。落ち着いた場所で話そう」

清都さんにエスコートされて歩き、エレベーターに乗り込む。
二年前とはまったく違う状況だけれど、胸のドキドキは一緒だった。

あのときは突然ふたりで泊まることになり、清都さんが気まずそうにしていたっけ……。
けれども今は、涼しげな横顔はひどく凜としていて、気まずさや迷いなどはおくびにも出さないといった表情だった。

前回と同じ最上階の一番奥、大きな窓からの展望が素晴らしい部屋に案内され、私はさらに動揺した。
優しい水色とクリーム色を基調とした、異国の雰囲気を醸し出すリビングルーム。隣には、キングサイズのベッドが置かれたベッドルームがある。

「映美、座って」

立ち尽くしていた私に、清都さんが淡々とした声をかけた。

「は、はい」

無意識にベッドルームの方に目を向けていた私は、ハッとして返事をする。
甘い夜の思い出が頭をよぎっただなんて恥ずかしくて、私は頬に感じる熱を放出したくて首を左右に振った。

カウチソファの端っこに腰を下ろすと、清都さんが頼んだルームサービスのコーヒーが運ばれてきた。
気持ちを落ち着かせるために香ばしい液体を一口飲み込み、コホンと咳払いをする。

「昨日、亜紀さんから連絡がありました。私の職場を知りたいがために、お母様を脅したって聞きましたけど、本当ですか?」
「脅したなんて人聞きの悪い。ただ、お母様にお願いしようとしただけだよ」

飄々と言いのけて、隣に座った清都さんは肩をすくめる仕草をする。

「けど、映美を取り戻すためならなんだってする。役職も立場も最大限利用するつもりだ」

長い足を優雅に組み、平然と話す清都さんに私は目を丸くした。

「立場?」
「きみが働くおにぎり屋に融資してうちの傘下に入れ、冷凍食品部門で商品展開したり、プリズムのメニューに取り入れるのも悪くない」

口をぽかんと開けて放心する私に対し、清都さんはニッと口角を上げて笑う。

きらきら亭を傘下に、って……まさか、本気で考えてるの?

「それは、さすがに冗談ですよね?」
「さあ、どうだろうな」

顔に困惑を滲ませる私に、清都さんは楽しそうな声でとぼける。肩透かしを食らった気分だ。

「あの、冗談はともかく。亜紀さんや亜紀さんのお母様を困らせないでください」

私はきっぱりと、語気を強めた。
< 58 / 90 >

この作品をシェア

pagetop