エリート御曹司は極秘出産した清純ママを一途な愛で逃がさない
「二年前、アメリカに赴任する前にごく短期間ではありますが映美さんと交際させていただいておりました。離れていた間も、映美さんを忘れた日はありません」

私は口を挟めずに、真剣な表情で対峙するふたりをそわそわと見比べる。

「光太のことでお母様にはご心配をおかけしましたが、映美さんと入籍したいと考えております」

それまで強張った表情だった母の目が見開かれる。
そして清都さんを見上げ、静かに口を開いた。

「ふたりでよく話し合ってください。私からはそれだけです」

そう伝えると、母は私に目配せして大きくうなずく。
再び一礼して車に乗り込む清都さんを見送ってから、母とともに家に入った。

出産する前に清都さんの素性を話したときは、立場の違いや予想外の妊娠を理由に反対された。
だから清都さんの登場に母は驚き、怒るのではないかとやきもきしたけれど、それは杞憂だった。

居間に敷いたベビー布団に光太を寝かせると、すぐにか細い寝息が聞こえてきた。

母は光太の寝顔を心配そうに見つめ、穏やかに頭をなでる。

「お母さんはね、あなたたちの幸せが一番大切だから。ふたりにとって、最善の道を選んでほしいな」

心ばかり微笑んだ母を見て、鼻の奥がツンとした。

今日一日緊張が続いたので、今ようやく光太の寝顔に安堵した。

「うん……」

それから清都さんを受け入れてくれた母の鷹揚さに、肩の力が抜けてホッとしたのもある。

「映美を産んで幸せだったし、光太に出会えてさらに幸せだよ。ありがとう」

母の声は子守歌みたい。限りなく優しくて、どこか切ない声色だった。

「お礼を言いたいのはこっちの方だよ……」

私は涙をグッと堪え、小さくつぶやいた。




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