エリート御曹司は極秘出産した清純ママを一途な愛で逃がさない
「お、それ気になるか? 一緒にやってみような」

黒いミニカーを手にする光樹に歩み寄り、清都さんは優しく声をかけた。
ミニカーを走らせるおもちゃで子ども目線になって一緒に遊び、光太の警戒をうまく解いている。

来たときよりも距離が縮まるまで、そう時間はかからなかった。

一緒にプリズムで働いていたときも、子どものお客様にも優しくコミュニケーションを取り、和ませる天才だったっけ。

「すっかり光太の心を掴んでますね」

私もふたりのそばに近づき、遊んでいる様子を見つめる。

「俺も小さい頃はミニカーが好きだったんだ。なんだか懐かしいよ」

目を細め、光太のペースに合わせて何度もサーキットのコースを走らせてみせる清都さんが、隣にいる私の顔を見た。

「それに、手に入れるためなら手段は選ばない」

不意打ちで鋭い視線を向けられ、私は狼狽する。

「卑怯だけど、得意なんだ。プレゼントで気を引き徐々に距離を縮める作戦」

言いながら、清都さんは意味ありげに目をすがめた。

その作戦に光太はしっかりハマっている。
二時間ほど夢中で遊び、お腹が空いてきた頃。周到なタイミングでデリバリーの昼食が届いた。

私と光太は手を繋いで広いリビングに移動する。

「ここのランチ、美味しいらしいよ」

ダイニングテーブルセットには光太の椅子も用意されていて、いたれりつくせりだ。

「このカフェ知ってます。行ってみたいと思ってたので、うれしいです」

テーブルに置かれた包装用の紙袋を見て、私はピンときた。

無農薬野菜や化学調味料不使用で有名なカフェだ。ここのオーガニック料理が子育てママに人気で、SNSでもよく目にするので気になっていた。

レタスやアボガドなど発色のよい野菜がみずみずしくてすごく美味しそう。

テーブルに並んだハンバーグプレートを見て、私は胸を躍らせた。
光太もかわいい旗が立つお子様メニューがうれしいらしく、ピョコピョコと飛び跳ねている。

興奮している食いしん坊な光太を椅子に座らせ、両手を合わせた。

「いただきます」

三人で食卓を囲むのはなんだか不思議な感じがする。
大きな口でハンバーグを頬張る光太を、清都さんは微笑ましげに見ていた。
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