エリート御曹司は極秘出産した清純ママを一途な愛で逃がさない
「おちゃ!」
清都さんがグラスのお茶を啜ったとき、一緒に遊んですっかり懐いた光太が、手を伸ばしてお茶を催促した。
私は家から持参したマグに入ったお茶を光太に手渡す。
「なんでも真似したがるんです。たぶん、そっちのグラスで大人と同じお茶を飲みたいんだと思います」
「よし、じゃあ光太もこっちのグラスで飲んでみるか?」
清都さんは早速中腰になり、お茶を取りに行こうとする。
「いえ、まだコップ飲みが苦手なので」
家では練習中だし多少溢してもいいけれど、ここではそうもいかない。落として高級そうなグラスを割ってしまったら大変だ。
「そうか……」
清都さんが残念そうにつぶやいて、再び椅子に腰を下ろす。
相当喉が渇いていたのか、勢いよくストローを吸う光太を隣から見つめていた私は、家でお茶を溢した朝を思い出した。
あのときテレビではちょうど、乃愛さんが出演しているクリスタルビールのCMが流れていたっけ。
乃愛さんとの結婚の話はどうなったのだろう。
私にプロポーズするということは、立ち消えになったのだろうか。
無性に気になって、私は口を開いた。
「……あの、クリスタルビールのCM、今も乃愛さんが出演されているのですね」
「ああ、清涼飲料水の方にね。友人の娘だから、父がかわいがっていて」
二年前と同様、乃愛さんは人気モデルとしてメディアで活躍する様子をよく目にする。
白鳥家との交流はまだ続いていたんだ、と思ったとき。
「アルコールの方には出られないんだ。妊娠中だから」
「へ?」
口に入れようとしたポテトサラダを寸でのところで止め、私は目をぱちくりさせた。
「近々結婚するそうだよ」
「え、そうなんですか⁉」
「ああ。一度婚約者とアメリカに遊びに来たんだ。そういえばそのとき、きみに会ったら謝っておいてほしいと乃愛から頼まれた」
清都さんはお皿の上に箸を置いた。
乃愛さんファンからのコメントは突然で悲しかったけれど、すでに消化して過去の記憶となっている。
「あの件は、もう気にしてないですから」
私が笑顔で言うと、清都さんは眉間にシワを刻んで首を傾げた。