エリート御曹司は極秘出産した清純ママを一途な愛で逃がさない
「うちの会社はずっと同族経営でやってきている。父は将来的に俺に継がせ、今後も血族関係者で経営を安定させて会社を永続するつもりだ」
「は、はあ」
「だから、早く跡継ぎがほしいんだよ。父がどんどん縁談話を進めてしまっている」
「跡継ぎ、ですか……」

以前社員から聞いた話だと、白鳥部長はひとりっ子らしい。
クリスタルビールほどの大企業だ、創業者のひ孫である社長が、他の誰かではなくいずれは息子の白鳥部長に継いでほしいと願うのは当然だ。

それに経営者として身を固めた方が、信頼度が増すのだろう。

私みたいな平凡な一般人には、関係のない話だけれど。

「実は俺、来月から海外勤務になるんだ」
「え⁉」

初めて耳にする話に驚いて、私は身を乗り出した。

「うちの会社、アメリカの蒸留酒メーカーを買収したんだよ。市場と販路を拡大するためにも、俺は責任者として二年ほど向こうに行く」
「アメリカですか……」

社員として買収の話は聞いていたけれど、白鳥部長が責任者となり赴任するとは知らなかった。

ニ年間会えなくなるんだ……。
来月からということは、あと一ヶ月。

これからは直接会って仕事の相談ができなくなるのかと思ったら、急に心もとなくなった。

「いい機会だから、結婚して向こうで夫婦ふたり、新生活を始めたらどうだと父が言い出して。それをなんとか回避したい」

そこで一旦説明が終わった合図なのか、白鳥部長は深く息を吐いた。

私はというと、ひとまず伝えられた衝撃でカラカラになった喉を潤すため、ビールを一口飲み込む。

『これから部下を口説こうとしてるんだ。焦って当然だよな』

つまり、私を偽恋人に口説き落とすって意味なんだ。
……びっくりした。勘違いするところだった。

仕事の面談かと思いきや、話は予想外な方向へ進んでいる。

内容が非現実的すぎて、夢の中にいるような不思議な感覚になってきた。
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