エリート御曹司は極秘出産した清純ママを一途な愛で逃がさない
「いくつか理由はあるけど……」

白鳥部長の漆黒の双眸が、真っ直ぐに私を射貫く。

もう指輪のきらめきを直視していないのに、キラキラの残像でまだ視界がまばゆく感じた。

「森名店長は真面目で、信用の置ける方だと思っている」

私は亀みたいにひょっこりと首を縮めた。

「それはその、恐縮です」

信頼してもらえるのは素直にうれしい。照れて頬が熱くなった。
私も白鳥部長は心から信頼しているし、部下として尊敬している。

恋人の振りだなんて、実際いたことがない私には難易度が高いと思ったけれど。
ご両親との食事会でボロが出ないよう注意さえすれば、難しくはないかもしれない。

お世話になった白鳥部長が頼ってくれているのだ。
こんな私でも力になれるなら、という前向きな方に心の天秤が傾く。

だから気になったことをとことん聞こう、と知りたい欲にアクセルがかかった。

「白鳥部長は、私に頼むくらいですから、恋人はいないんですよね? ご結婚に興味はないのですか?」

突っ込んだ質問に、白鳥部長は心ばかり微笑んだ。

「恋人はいない。けど、結婚にまったく興味がないわけじゃないんだ。心から愛する女性としたいから」
「そうですか……」

それだけ返すと、私は口をつぐんだ。

すでに今、募る思いを秘めている女性がいるのか、それともこれから出会うであろう相手を思っているのかわからない。
けれど、白鳥部長の心は迷いなく、その女性に向けられていると伝わる真摯な眼差しだった。

お互い無言になる間があった後、白鳥部長がニッと口を斜めにする。
そして膝で握る私の手を優しく開き、指輪ケースを手のひらにちょこんと乗せた。

「もちろんタダでとは言わない。この指輪は、食事会が終わればきみのものだ」
「え⁉」

私は大げさに仰け反る。
こんな高価なものがたった一度の対価だなんて、御曹司の行動は破格すぎてびっくりだ。

「こ、こんな高価なものはいただけません!」
「もう時間がないし、こういうプライベートな件は付き合いの長い森名店長にしか頼めない。どうか前向きに検討してほしい」

私の手をギュッと包み込み、白鳥部長は切実な声で言った。

「は、はあ……」

私は戸惑いながら曖昧にうなずく。

白鳥部長の手のぬくもりをなんだか妙に意識してしまい、心臓が打ち上げ花火のようにどくんと高鳴った。
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