新そよ風に乗って 〜夢先案内人〜
席に戻りファイルを広げながら、数字のからくりに誤魔化されていた会社の実態を社長に報告すべく書類の作成に取りかかった。明後日の朝、この書類を社長に見せてそれからどうするかを決めて貰う。どうするかではないな。もう一刻も早く精査を始めてすべての膿を出し、決算で大赤字になろうともその後に待ち受けている破綻を回避しなければならない。そして七年後に破綻する計算を、三年から五年の間に黒字転換軌道にのせたい。これが俺の目標であり、課せられた使命。夢は……未知数で、まだその先にあるのか?
月曜の朝に社長にアポイントを取ろうと秘書室に電話をすると、思った以上にすぐに社長のアポイントが午後20分だけだったが取れて、14時過ぎに緊張と使命感を共に抱きながら社長室へと向かった。
「失礼します」
「高橋君。掛けて」
「はい。失礼します」
秘書に案内されて初めて入った社長室は、思った以上に広かった。天下りの遺産とでもいうのか、元官僚だった前社長の時に建てられた本社ビル。贅を尽くされた社長室は、今となっては不要なものばかりが携われていた。
「社長室に入った感想は?」
こんな浮世離れしている部屋は不要だと言いたいところだが、それはあまりにも……。
「高橋君が感じたことが、今の会社を物語っている」
社長。
「さて、本題に入ろう。あまり時間もないことだ」
「はい。早速ですが、ここに資料をお持ちしました。お時間のある時にと申し上げたいのですが、その時間がとてもありません。簡潔に一表に纏めさせて頂きましたので、今、ご覧頂けますでしょうか」
「わかった」
社長は俺が言わんとしていることが何か察したのか、座った応接セットのテーブルの上に置いた書類をすぐに手に取ると目を通し始めた。自分が今、この席に座っていることも、社長に直談判などという大胆な行動に出ていることも、正直、信じられず、我に返るような感覚で虚像の自分を内側からところどころ垣間見ているような心境だ。