新そよ風に乗って 〜夢先案内人〜

馬鹿にするのもいい加減にして下さい。それに、貴博さんは誰にも渡さないと、何時かミサさんが言っていたじゃないですか。だから……だから私から貴博さんを引き離したんじゃないんですか？　だったら何故、貴博さんと別れたりしたんです。頼みもしない余計なことを……。そんな姑息な手段まで使って貴博さんを横取りするなんて、卑怯ですよ」
酷すぎる。貴博さんを私から奪うなんて。
「好きな相手に別れを告げなければならない気持ちが、どれほど辛いか貴女にわかる？好きなのに、別れなければならない。相手が打ちひしがれて悲しむ姿が手に取るようにわかっても、それでも別れを告げなければならない者の心が引き裂かれる思いが、どれほど苦しくて、辛くて、すべてが後悔の連続で……。もがき苦しんでいる相手を見ても、手を差し伸べることも出来ないジレンマと、それでも相手には戻れない現実。貴博が、どんな思いで貴女に別れを告げたのか。貴女はわかっているの？それなのに貴女は……」
ミサさんの目に、うっすらと涙が滲んでいる。まるで自分の気持ちを話しているようなほどの、緊迫感と悲壮感漂うミサさんの言葉。
「周りのスタッフが、どれほど貴女をバックアップしようと奔走しているかも知らないで、悲劇のヒロインを演じているつもりかもしれないけれど、はき違えないで頂戴。悲劇のヒロインは、自暴自棄になって決して周りに迷惑を掛けたりはしない。公私混同もせず、自分の置かれた立場をわきまえて全力を尽くしても尚、不幸が襲う筋書きよ」
私が、悲劇のヒロインを演じている？
「今、言ったことを、信じるかどうかは貴女の勝手。だけど、貴博の思いを踏みにじるような行動だけは許さない。見なさい。鏡に映った今の自分の姿を、その目でちゃんと見てみなさい」
迫力と凄みのある声に思わず従ってしまい、鏡の前に立たされた自分の姿を見た。肌のコンディションの悪さが目に付く。浮腫んで瞼が分厚く、水分を含んで重そうに見える。とてもじゃないが、モデルとしては見られたものじゃない。