新そよ風に乗って 〜夢先案内人〜
「生きていく上で、挫折を味わうのは多かれ少なかれ当たり前のことで、その挫折からいかに立ち上がって復活するかが鍵だ。君のプロジェクトには、沢山の人の力と金が掛かっている。そして、それは沢山の人達の希望をも担っているのだよ。君を世に送り込んで、光を浴びさせるというね。そのためには、労力を惜しまずに働いてくれている。隣に座っているマネージャーだってそうだ。君の脚光を浴びる日を目指して、日々、君のマネージメントに徹してくれている。今の生活が嫌だからといって、投げ出す君は簡単だろう。だが、投げ出した君の後に居る、君の知らないところでも動いてくれている沢山のスタッフはどうなる?仕事とはいえ、何の見返りもないのに朝から晩まで君の成功だけを考えて奔走してくれている人達の思いはどうなる?」
何も返す言葉がなかった。すべて自分が招いてしまったことで、他の人達は悪くない。ボイストレーナーの人だって一生懸命教えてくれて、それ故にいつも怒ってくれていた。マネージャーも、私の我が儘をいつも聞いてくれていろいろやってくれていた。それなのに、貴博さんと別れてしまったことで全てが嫌になってしまい、やる気も失せて、周りに迷惑ばかりをかけて。こんな私になって欲しいと、誰が望んでいた? 誰も望んでなんかいない。貴博さんだって……。
「もう一度だけ聞かせて欲しい。君はもうこのプロジェクトの仕事を辞めて、今までどおりのモデルの仕事だけをしていくのかね?」
「私は……」
自信がなかった。これから先、本当にちゃんとやっていけるのかどうか。
「悩み多き年頃でもあるだろうが、自分の気持ちを乗り越えるには、時に自分の思いや人の思いをも踏み台として、力に変えることも必要だということを覚えておきなさい」