新そよ風に乗って 〜夢先案内人〜
時に自分の思いや人の思いをも踏み台として、力に変えることも必要……。私の貴博さんへの思いや、貴博さんの私に対する思いを踏み台として力に変える。貴博さんの力を間接的に借りられるということ? このまま、本当に諦めてしまっていいのだろうかという思いはある。貴博さんを思う気持ちは、今でも誰にも負けないつもりでいる。けれど貴博さんの気持ちは、もう戻ってこない。貴博さんという人は意志が強く、決めたことを簡単に曲げるような人ではない。どんなに懇願しても、もう戻ってきてくれる望みはないとわかっていた。わかっていたけれど、それを認めたくなくて……。このまま諦めてしまえば、楽になれる。だけど諦めてしまっては、きっともうチャンスはないに等しい。貴博さんを失った私には、自分の夢を叶えることしか残っていない。その夢までも、失いたくない。
「もう一度……もう一度、私にチャンスを下さい。お願いします」
「泉ちゃん」
マネージャーが、嬉しそうな声で名前を呼んだ。
「私からも、お願いします」
マネージャーが一緒に頭を下げてくれている。私は、この人達の期待と希望を裏切ってはいけないんだ。
「その代わり、今もレコード会社の人とも話したんだが、ボイストレーナーの人とも打ち合わせをして、来月の君のデビューは少し先送りになったがいいね?きちんと基礎から学んで、太鼓判を押してもらえてからメジャー・デビューしても遅くはない。それまでは少し戦略を変えて、モデルの仕事で脚光を浴びられるよう方針転換するから」
「はい。よろしくお願いします」
デビューが先送りになったと聞いても、落胆はなかった。それだけの練習をしていないし、そんな自信もない。
「それじゃ、そういうことで。ボイストレーナーの人には、話は通しておいたから。これから行くといい」
「はい。ありがとうございます」
「それでは、失礼します」